浮世絵の摺りと彫り Ⅰ
浮世絵の彫り師でもあり、摺り師の上田真吾氏による「浮世絵の摺りと彫り」の講座に出席した。摺りを実演しながら浮世絵の工程などを説明し、いろいろな質問に的確に答えてくださる。床の上にあぐらをかいて、膝で体を安定させて作業をする。最初はこれが大変だったという。「摺り三年、彫り五年」と言うそうだ。
浮世絵には版元の下に絵師、彫り師、摺り師という三種類の職人がいる。彫り師は絵師の描いた下絵を版木に貼ってまづ輪郭線を彫り、そして各色の版木を彫っていく。版木には固くて、かつ粘りのある山桜が使われる。現代ではある程度の幅のある山桜は得にくくなったので、下の部分を合板としたものが出ていて、その方が反ったり縮んだりしないという。つげの木は固いので緻密な彫にはいいけれど、大きな材が取れないので顔の部分などに、象嵌して使うことがある。版木を削ったり、象嵌する職人を版木師といい、10年前に最後の人が亡くなってしまった。売れなかった浮世絵の版木や、すり減って使えなくなった版木は削ってまた使用した。 彫り師が版木を彫るときには板を動かすのではなくて、彫りの角度を一定に保つために、自分の手を動かす。したがって彫り師は手首の柔らかさが大切。
摺り師はまず輪郭線を摺るところから始める。輪郭線は色の境目になり非常に大切。輪郭線の摺りにはかつては、折れ墨を砕いて甕に入れておき、どろどろにすりつぶしたものを使用していたが、現在は墨汁を使用している。初(しょ)摺りは200枚ほどで、この時絵師が立ち会い、色を決めていく。したがって初摺りが一番絵師の意図を反映する。何回か版を重ねていくと、版木が磨滅したり、欠けたりするので、後世の人はそこから初摺りや後摺りなどを知る。
版木に色を載せる時には馬の刷毛を使用して、版木を湿らせてから行う。また紙も適度に湿らせてから摺る。作業をしながら紙にも気を配っているわけで、これを「紙の面倒を見る」という。南米のボリビアの乾燥したところで実演した時にはすぐ乾燥してしまい、いかに日本の湿潤な気候が浮世絵に向いているかを実感したそうである。
絵具は赤・青・黄色が基本で、それらを混ぜ合わせて色をつくっていく。灰色は墨を水で薄めることによって出していく。基本的に白は使わないが、京都では白を使う。日本画の場合は粒子の粗い岩絵の具を使用するが、庶民のものであった浮世絵の絵具は高価な絵の具は使っていない。現在使っているのは基本的には水彩画のチューブと同じで、化学的に作ったものを使用している。
摺るときには紙の上から馬簾を使用して、強力な圧力で色を染み込ませる。
馬簾はあて皮、縄、竹の皮からできている。あて皮は和紙を50枚ほどわらび糊で貼り付けてつくる。何日もかかる作業である。そして鋼みたいに固く、かつ弾力のあるものを作っていく。あて皮の上には、竹の皮を裂いて撚りそれを細い縄にしたものを入れている。縄の作る突起が重要で、そこからプレスの時の強い圧力が出る。最後に表面を竹の皮で覆って出来上がり。かつては摺り師が一生使えるような馬簾を時間をかけて作っていた。現在は効きがよく、広い面積に仕えるベアリングの入った馬簾もある。
何回も色を重ねるのでそのたびに版木をかえるが、その際に位置を固定できるように見当という目印をつけておく。はじにあるのがL字型の鉤見当で、もう一つは引き付け見当という。紙は湿らせてあるので、この見当にさっと持っていくのにもコツがある。
色の順序としては薄い色から濃い色へ。面積の狭いところから、広い部分へ(広いところから摺ると紙がよれてしまう)。見当から離れたところから近いところへ摺っていく。
浮世絵で忘れてならないのは和紙の存在。和紙は繊維が長くて丈夫なために、何度も強くこすっても耐えられる。また色が中まで深く染み込む。中国の竹紙(ちくし)では圧力に耐えられない。
10数回色を重ねて、最後に安藤広重の東海道五十三次の「庄野」が出来上がった。色はあまり使わずに、墨の濃淡とグラデーションで雨の情景を描き出している。
浮世絵には版元の下に絵師、彫り師、摺り師という三種類の職人がいる。彫り師は絵師の描いた下絵を版木に貼ってまづ輪郭線を彫り、そして各色の版木を彫っていく。版木には固くて、かつ粘りのある山桜が使われる。現代ではある程度の幅のある山桜は得にくくなったので、下の部分を合板としたものが出ていて、その方が反ったり縮んだりしないという。つげの木は固いので緻密な彫にはいいけれど、大きな材が取れないので顔の部分などに、象嵌して使うことがある。版木を削ったり、象嵌する職人を版木師といい、10年前に最後の人が亡くなってしまった。売れなかった浮世絵の版木や、すり減って使えなくなった版木は削ってまた使用した。 彫り師が版木を彫るときには板を動かすのではなくて、彫りの角度を一定に保つために、自分の手を動かす。したがって彫り師は手首の柔らかさが大切。
摺り師はまず輪郭線を摺るところから始める。輪郭線は色の境目になり非常に大切。輪郭線の摺りにはかつては、折れ墨を砕いて甕に入れておき、どろどろにすりつぶしたものを使用していたが、現在は墨汁を使用している。初(しょ)摺りは200枚ほどで、この時絵師が立ち会い、色を決めていく。したがって初摺りが一番絵師の意図を反映する。何回か版を重ねていくと、版木が磨滅したり、欠けたりするので、後世の人はそこから初摺りや後摺りなどを知る。
版木に色を載せる時には馬の刷毛を使用して、版木を湿らせてから行う。また紙も適度に湿らせてから摺る。作業をしながら紙にも気を配っているわけで、これを「紙の面倒を見る」という。南米のボリビアの乾燥したところで実演した時にはすぐ乾燥してしまい、いかに日本の湿潤な気候が浮世絵に向いているかを実感したそうである。
絵具は赤・青・黄色が基本で、それらを混ぜ合わせて色をつくっていく。灰色は墨を水で薄めることによって出していく。基本的に白は使わないが、京都では白を使う。日本画の場合は粒子の粗い岩絵の具を使用するが、庶民のものであった浮世絵の絵具は高価な絵の具は使っていない。現在使っているのは基本的には水彩画のチューブと同じで、化学的に作ったものを使用している。
摺るときには紙の上から馬簾を使用して、強力な圧力で色を染み込ませる。
馬簾はあて皮、縄、竹の皮からできている。あて皮は和紙を50枚ほどわらび糊で貼り付けてつくる。何日もかかる作業である。そして鋼みたいに固く、かつ弾力のあるものを作っていく。あて皮の上には、竹の皮を裂いて撚りそれを細い縄にしたものを入れている。縄の作る突起が重要で、そこからプレスの時の強い圧力が出る。最後に表面を竹の皮で覆って出来上がり。かつては摺り師が一生使えるような馬簾を時間をかけて作っていた。現在は効きがよく、広い面積に仕えるベアリングの入った馬簾もある。
何回も色を重ねるのでそのたびに版木をかえるが、その際に位置を固定できるように見当という目印をつけておく。はじにあるのがL字型の鉤見当で、もう一つは引き付け見当という。紙は湿らせてあるので、この見当にさっと持っていくのにもコツがある。
色の順序としては薄い色から濃い色へ。面積の狭いところから、広い部分へ(広いところから摺ると紙がよれてしまう)。見当から離れたところから近いところへ摺っていく。
浮世絵で忘れてならないのは和紙の存在。和紙は繊維が長くて丈夫なために、何度も強くこすっても耐えられる。また色が中まで深く染み込む。中国の竹紙(ちくし)では圧力に耐えられない。
10数回色を重ねて、最後に安藤広重の東海道五十三次の「庄野」が出来上がった。色はあまり使わずに、墨の濃淡とグラデーションで雨の情景を描き出している。
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